ポッキーの好きなロックウエルの作品

ロックウエルの作品はアメリカ人の日常生活のある1場面を完璧といってもいいほどに描きだしていて、古き良きアメリカを感じさてくれます。「I paint life as I'd like it to be(私はこうあって欲しいという生活を描いたのです)」とロックウエル自身が語っているように、どの作品の主題も私たちの身近にあるものばかりなのです。そして、さらにそれぞれの作品の背後に隠されたストーリーを知っていると作品を何倍も楽しむことができます。ここではポッキーの好きな作品をいくつか紹介してみたいと思います。ノーマン=ロックウエルの世界をお楽しみください。

Stockbridge Main Street at Christmas(1967)

ロックウエル博物館の入り口の左右の壁に大きく展示されていて、美術館を訪れた人を最初に迎えてくれる作品でもあります。

ロックウエルが1953年から亡くなるまで住んだストックブリッジのメインストリートを描いたものです。彼はこのストックブリッジを大変気に入り、「Stockbridge is the best of America」と表現しています。彼はストックブリッジにアトリエを構えていて、この作品にも描かれています。クリスマスツリーが飾られている中央の白い家の2階が、彼の昔のアトリエです。この作品は1950年代の半ばに描かれた作品ですが、実際に完成・発表されたのは1967年のことでした。描かれてから発表されるまでの時間のズレがいくつか作品の中に見られます。先ず、作品の右手側にある大きい白い建物は
レッドライオン・インというホテルですが、明かりがついていなくて真っ暗です。これは50年代にはレッドライオン.インは夏期しかオープンしていなかったためです。さらに絵の中に描かれている車はすべて50年代のモデルです。これでは作品を発表するのにおかしいということで、新たに60年代のモデルの2台の車:レッドライオン・インから出てくる右端の車と左端の町から出ていく黄色い車が書き込まれています。トックブリッジの町はロックウエル美術館に行く途中に通ります。一瞬で通り過ぎてしまうほど小さい町(この表現が大袈裟でないのが解りますよ)ですが、現在でも「The prettiest in America」と呼ばれていて人気があります。夏期のシーズンにはパーキングを探すのも大変だし、いつも車が渋滞するほどです。時間に余裕があったらストックブリッジの街並を散策したり、Seven Artsというお店(44 Main St.)でロックウェルのプレート、フィギアなどおみやげを買うのもいいかもしれません。


Triple Self-Portrait(1960)

この作品は、1994年ロックウエルの生誕100年を記念して発行された切手のデザインにも使用されたし、ロックウエル美術館のパンフレットの表紙にもなっているので見たことのある人も多いと思います。題名の3つの自画像とは、鏡をのぞいている彼・鏡に写っている彼・キャンバスに描かれている彼のことですが、それぞれが違う自画像になっているのに気がつきますか。鏡をのぞきこんでいるのは現在の彼なのですが、キャンバスに描かれている彼はあきらかに現在よりもずっと若い姿をしています。そういえば、鏡に写っている彼の眼鏡はどうやらくもっていて、現在の彼の姿がよく見えていないようです。

彼の足下に置かれたバケツからは煙りが立ち上っています。ロックウエルはいつもパイプを吸っていて、その吸い殻を無造作にバケツの中に捨てていたそうです。43年にはその火がもとでバーモント州アーリントンにあった彼のアトリエが全焼しています。またキャンバスの上にかけられた金のヘルメットは、彼がフランスのアンティークショップで気に入って買ってきたものです。現在でも美術館の敷地に移築された彼のアトリエで、この作品と全く同じようにヘルメットが上にかけられたキャンバスを見ることができます。


Art Critic(1955)

絵の道具を持った人物が絵を覗き込み、絵の中の人物もまた覗き返すという発想はかなり前からあったようですが、なかなかモデルが決まりませんでした。いろいろなモデルで試してみましたが、結局ロックウエルの気に入った人が見つからず、最終的に彼の2度目の妻・メアリーがモデルを務めることになりました。美術館を見学している少年は絵の説明のパンフレットを持っていますが、パンフレットに載っている写真とは実物の絵は随分違うようです。気になるので、虫メガネを使ってジックリと絵を観察しています。そんな少年を不思議そうに絵の中の人物が見つめています。さらに少年の後ろの絵の中に描かれた人々も一体何をしているんだろうと不思議そうに見つめています。この作品に描かれている少年のパレットは絵の具部分が実際に盛り上がっていて面白いので、是非実物を見てみてください。


Freedom of Speech(1943)

フランクリン=ルーズベルト大統領の演説からアイディアを得た「The Four Freedoms」シリーズの1つ。他に「Freedom to Worship」「Freedom from Want」「Freedom from Fear」があります。アメリカ政府はこの作品を使用して戦時公債ポスターを作り、ロックウエルはその売り上げに貢献することとなります。前方右側に描かれている横顔の男性が持っているパンフレットから、ヴァーモント州のとある町のタウンミーティングの会場であることが解ります。ロックウエルが当時住んでいたヴァーモント州アーリントンの人々をモデルにして描いたようです。キチンとスーツを着込んだ裕福そうなホワイトカラーの人々が「一体、この男は何なんだ」とウサン臭そうに見つめる中、労働階級らしい男性は前を向いて堂々と演説をしています。

この「言論の自由」は「4つの自由」のシリーズの中でも最も好きな作品です。ロックウエル美術館にはこの「4つの自由」の展示セクションもあるので、残りの3作品と共に是非見てみてください。


Marriage License(1960)

左側にある木のドアにはMarriage Licensesと書かれているように、ここは町役場の婚姻届けを受理する係りの部屋です。足下に置かれた煙草入れの周りには、煙草が散乱していることから今日はどうやら忙しい日だったことが解ります。金曜日の午後。日めくりのカレンダーは明日にしたし、腕につけていた黒いカバーもはずしたし、国旗もたたんだし(この雑なたたみ方からも事務員が疲れている様子が解りますね)、事務員の就業時間もそろそろ終わり。婚姻届けを出しに来る人なんてもう何百回も見ているし、まったく立ち上がる気力もないほど疲れきって椅子に座っている事務員の様子がよく解ります。一方、若いカップルはそんな事務員の様子には全く気付かずに、ウキウキと婚姻届けにサインをしています。新しい人生の門出にたった2人の胸のときめきが、まるで聞こえてくるかのようです。カレンダーは6月、ジューンブライドを祝福するように戸外にはまぶしい初夏の日ざしが見えます。左側に描かれているストーブの上には無造作に本が置いてあることからも、ストーブが必要ないほど暖かい気候なのが解ります。


この作品の舞台となったのはストックブリッジの町役場で、現在もメインストリートにこの作品と同じ建物を見ることができます。右側の写真をよく見ると窓の上にタウンオフィスの文字が見えます。ただし現在は町役場ではなく、ヤンキーキャンドル・カンパニー(34 Main St. 413-298-3004)というキャンドル屋さん。とはいえ建物を保存するためにレンガの壁もそのままになっていて、入り口のドアから外を見るとロックウェルの絵と同じ構図を見ることができます。また作品に描かれている若いカップルもストックブリッジ在住の2人で、現在でも本人はもちろん、その子供・孫までがこの作品を見にやってくるそうです。


Christmas Homecoming(1948)

「サタデイ・イブニング・ポスト」の12月号の表紙だったこの作品には、ロックウエル家のファミリーが勢ぞろいしています。黄色いシャツを来たロックウエルの妻・メアリーが抱きしめて迎えているのは、大学の1学期を終えてクリスマスを祝うために帰宅した長男・ジャービス。ジャービスは家族へのクリスマスプレゼントと共に鞄の中には汚れた洗濯物(男の子らしい!)を入れているのが解ります。後ろにはトレードマークのパイプをくわえたロックウエル。左側には黄色と茶色のしまシャツを着た真中の息子・トーマス、一番左には眼鏡をかけた末の息子・ピーターの姿があります。さらに2人の息子の間には、
グランマ=モーゼスの姿も描かれています。ロックウエルは近くに住んでいたモーゼスとは親しい友だちでした。



The Runaway(1958)

この作品は同じタイトルで2度描かれています。美術館にはこの作品のもとになった下絵も並べてあるので、いかに作品が変化したかを比べてみるのも楽しいです。最初は都会的なアイスクリーム・パーラーでしたが、それがもっと田舎に舞台を移し、さらにカウンターの中にいる人物も年令がかなり上になっています。

タイトルが示す通り、家出を試みた少年が警官に保護された様子を描いたものです。これはロックウエル自身の少年時代の経験をもとにしているそうです。ラジオやカウンターの雰囲気、さらに家出少年の荷物を見ると、いかに時代が古いか、またここが都会ではなく田舎なのがよく解ります。警官の腕についたマークを見ると、なんとマサチューセッツ・ステート・ポリスと書かれているので、ストックブリッジのあたりなのでしょう。カウンターの中から眺める男性の暖かいまなざしは、家出をしようとした少年の気持ちがまるで分かっているかのようです。


The Problem We All Live With(1964)

ロックウエルはアメリカ人の生活を描くと共に、当時の大きな出来事や社会的問題をテーマにした作品にも取り組んでいます。60年代は公民権運動をテーマにした作品を何点か残しています。塀にぶつけられたトマト、ニガーと書かれた落書き。その横を4人のUSマーシャルに保護された黒人の少女が学校へと向かいます。4人のUSマーシャルは肩から下しか描かれず、さらに濃い色と薄い色を交互に配置した背広の色の対比、黒人の少女の着ている真白なワンピース。見る者の視点は少女に集中するように工夫されています。こんな状況の中を学校へ向かう少女は、まっすぐ前を見て堂々と歩いています。アメリカでの人種差別撤廃を目指す公民権運動の嵐の中、ロックウエルは主に子供たちに焦点をあてて社会的な作品を残しています。

オマケこちらでレッドソックスを描いた絵を紹介しています